大会オフィシャルプログラムに収録する、今大会のスポーツマネージャーに聞いた日本リード界の現状とLJCの見どころ、大会注目選手紹介を特別公開します。

今大会のスポーツマネージャー、羽鎌田直人に聞く

日本リード界の現状とLJCの見どころ

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近年、ボルダリングとともにリードでも世界トップレベルの強さを誇る日本勢。元リード日本代表選手で、今大会のスポーツマネージャー(競技責任者)を務める羽鎌田氏に国内王者を決めるLJCの注目点やコロナ禍における大会運営について聞いた。

日本がリードで活躍できるワケ

- 羽鎌田さんは現役時代、各年代で主にリードの日本代表選手として活躍されてきました。日本はボルダリングで世界トップレベルを誇りますが、リードのレベルはどのくらいなのでしょうか?

「リードに関しては確かに練習環境で劣っている部分があると思いますが、それでも若い選手がW杯の決勝に残ったり、2019年は西田秀聖選手と清水裕登選手が優勝しました。限られた環境の中で日本は健闘していると思いますね」

- 2019年は日本が6年ぶりに国別ランキングで1位となりましたが、近年日本が活躍できている要因はどこにあると思いますか?

「近年は単純な持久力だけでなく、ボルダリング的な瞬発力を求められる傾向があります。リードとしては高い壁でロープを付けて練習できることが一番ですが、ボルダリングジムでの練習も活かせるルートの傾向になってきていることが大きいと思います」

- リードの課題の中にボルダリング的な要素が増えてきているということですが、どういう意図があるのでしょうか?

「私が現役の頃は、壁に小さなホールドがたくさんあって、選手としては普通ですが、遠くにいる観客からはよく見えないホールドを選手たちが登っているように見えるわけです。それではあまり面白くないだろうということで、ボルダリングでも使われるような大きなハリボテなどをたくさん付け、動きとしてもダイナミックなものを要求して観客を楽しませる、という意図があると思います」

- 日本もリードW杯などでまた徐々に結果を残せるようになってきましたが、欧米と比べるとトレーニング環境の面に違いはあるのでしょうか?

「リードのジムは欧米のほうがたくさんありますし、リードという種目自体もメジャーだと思います。日本にもリードのジムはありますが、壁の高さが少し低かったり、数自体が少ないです。建築基準法の関係で高い壁を建てづらい環境にもあるので、難しい問題ですね」

- 競技者の数にも差があるのでしょうか?

「大会に出る選手の数もそうですし、一般の人がどれだけリードに触れているかという点でも大きく違うと思います。ドイツのミュンヘンにあるジムに行ったことがあるのですが、出勤前のサラリーマンがジムに来てリードを軽く登ってから、スーツに着替えて出勤するという光景がありました」

- リードを登ることが日常の中にあるのですね。

「そう思います。サラリーマンが出勤していった後にはお年寄りが、夜になると若者たちが登りに来ていました。どちらかといえばボルダリングよりもリードのほうが人気があり、その市民権は根強いものがありますね」

- ジムの規模も日本とは違うのでしょうか?

「先ほどのミュンヘンのジムもかなり広いリードジムの中にボルダリングの壁もあるという感じでした。日本は小さなボルダリングジムが各地に色とりどりあるという感じですよね。そもそも欧米と日本ではジムのコンセプトが違うのだと思います」

選手たちの目標となる環境作りを

- ジムの規模も日本とは違うのでしょうか?

「先ほどのミュンヘンのジムもかなり広いリードジムの中にボルダリングの壁もあるという感じでした。日本は小さなボルダリングジムが各地に色とりどりあるという感じですよね。そもそも欧米と日本ではジムのコンセプトが違うのだと思います」

- 羽鎌田さんはIFSC(国際スポーツクライミング連盟)とJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)が主催するどちらの大会にもジャッジやテクニカルデリゲイトとして関わった経験がありますが、運営面で違いはありますか?

「日本の大会運営は世界の中でも高いレベルだと思います。東京五輪があることで注目されていますし、協賛していただいている企業様がたくさんいます。また、テレビやYouTubeでの中継もありますし、他のメジャーなスポーツにも劣らない運営レベルだと自負しています」

- IFSCからはどんな評価なのでしょうか?

「国内で開催するW杯や世界選手権ではIFSCから審判が派遣されるわけですが、彼らに『やることがないくらいだ』と言われるほど、日本のレベルは高いですね。それはここ数年で多くの国際大会の運営を経験したことが大きいと思います」

- 羽鎌田さんは「スポーツマネージャー」という肩書きで今大会の運営に携わっていますが、どのような役割なのでしょうか?

「大会の中で選手と競技に関する部分を調整しています。具体的には競技の日程を決めて、それに対して会場のスケジュール調整や備品の手配を行うことなどが主な役割になります」

- 今大会の注目ポイントはありますか?

「東京五輪に出場が決まっている4人がどんなパフォーマンスをするのか、そしてこのLJCに出場するためのジャパンツアーを勝ち抜いてきた選手がどれだけ上位層に食い込んでいけるのかに注目しています」

- このコロナ禍においても、今年もLJCが行われるわけですが、今大会はどのような位置付けになりますか?

「今年はW杯が全戦開催されるのか危ういところがありますし、すでに上半期の大会が後半に移っているものもあります。選手たちにとっては先が見えづらい中で、せめて国内大会だけでもしっかりと開催して、目標となる大会の環境を作ってあげることが大事だと思っています。コロナ対策で気をつけなければいけない点はたくさんあり、運営としても負担は増えていますが、それでも選手やクライミングファンのために開催することが重要ですし、運営としても定期的に大会ができなければ運営ノウハウのブラッシュアップができません。選手、ファン、運営。この3つを考えて、こうしたコロナ禍でもなんとか開催したいという思いでやっています。これからも多くの人にとっての良い大会となるように、良い準備をしていきたいと思います」


LJC2021の注目選手たち

第34回リードジャパンカップの注目選手たちを紹介。彼ら8名が2021年のリード日本一決定戦を熱くする。

西田 秀聖

天理高等学校
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2019年にW杯第3戦を制した若手実力者。苦手のボルダリング強化に励むなど、伸びしろは十分。高校を卒業した今春、目指すは初の国内王者に輝いた前回大会に続く2連覇だ。

1. リードにおける自身の強み

自身で強いと言える部分が見当たらないので、自信を持ってそう言えるところを少しでも多くあげられるように強化模索している所です。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

ボルダリング能力の改善強化のため苦手傾向のある課題に取り組んできていますが、まだまだ納得のいくレベルまで到達できていないので、ボルダリング能力の改善をより重点的に強化しています。

3. 今大会の目標、意気込み

挑戦者として参加させていただいた前回大会を経て、今回は注目選手として取り上げていただきましたが、自分は挑戦者という気持ちを忘れずに一手でも高く登れるよう頑張りたいと思います。

樋口 純裕

佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟
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長年日本代表として活躍し、W杯表彰台経験もあるベテラン。昨年末の第3回コンバインドジャパンカップ決勝では数少ないリードの完登者となるなど、まだまだ衰えは見えない。

1. リードにおける自身の強み

持久力はあるほうですが、純粋な持久力はリード専門の若い世代と比較した時に少し劣るかもしれません。ただそれを補って余るだけの我慢強さと立て直しの上手さがいまの自分にはあります。肘が上がりだしてからでも持ち堪えて手数を伸ばしていける能力はあると思います。前腕がシビアな状態からでも「アイツなかなか落ちてこねーな」と思ってもらえるくらい粘って高度を稼いでいきたいです。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

週5ほどの練習頻度で、いまはほとんどがリードのトレーニングです。ただ、リードばかりやっていると瞬間的なパワーの出し方を体が忘れてしまうので、週に1回は「B-PUMP荻窪」などのボルダリングジムで登ることもあります。仕事もあるので1回の時間は限られますが、そこは職場が職場なので、自分でホールドの付け外しをしたりルートを作ったりして好き勝手やらせてもらっている(笑)ので不足はないと思います。(樋口選手はクライミングジムに勤務)

3. 今大会の目標、意気込み

もちろん優勝です。リード専門選手の増加や、五輪の競技となったこともあり、リードに取り組む選手が増えました。また、W杯で表彰台に乗る選手が日本からも出てくるなど、ここ数年で大きくレベルが引き上げられた現代の日本のリードコンペシーンですが、そうした中でも勝てる実力を持つ選手であることを証明したいです。

高田 知尭

鳥取県山岳・スポーツクライミング協会
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2020年に行われた日本代表選手による大会「Top of the Top」では、圧巻のパフォーマンスでリード、ボルダリングの2冠を達成。今大会でも上位入賞の期待がかかる。

1. リードにおける自身の強み

強みかどうかはわかりませんが、いい登りだった時は粘りのある登りをできている時だと自分では思うので、そういうクライミングをしたいです。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

藤井(快)さんや樋口(純裕)さんをはじめ、仲良くしてもらっているクライマーの皆さんとリード(壁のある)ジムに行っています。状態の良さは蓋を開けてみないとわからない部分がありますが、いい状態だと嬉しいなと思います。

3. 今大会の目標、意気込み

上を目指して精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします。そろそろ皆さんに認めていただけるような成績を出したいなぁと思っています(笑)。

清水 裕登

愛媛県山岳・スポーツクライミング連盟
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国内屈指のルーター。2019年のリードW杯印西大会で日本男子5人目の優勝を果たす。第3回コンバインドジャパンカップでも予選、決勝を両完登し、その実力を見せつけた。

1. リードにおける自身の強み

持久力はあまり意識したことがなかったのですが、近年は持久力があると言われ、そこが強みだと認識しています。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

週4日、内1日はボルダーのトレーニングをしています。ここ最近はリードのトレーニングだけでなく、ボルダーの大きい動きや強度の高い動きも積極的に取り入れ、リードでもその動きが出せるよう意識し始めたところ、リードの動きも良くなりました。ボルダーも取り入れながら、リードでの登り込みや強度の高いインターバルトレーニングをするつもりでしたが、腰の痛みであまりトレーニングができていない状況が続いています。痛みが軽い日に高グレードをトライし、強度の高いルートの対応力や感覚を鈍らせないようにしています。ボルダー要素のある動きなどが苦手だと感じていましたが、ここ最近は少し対応できていると感じていますし、スキル、身体的、精神的にもこれまでより強くなったと感じます。しかしトレーニングでの追い込みや満足のいく練習ができていないので、そのことについてのストレスは高く、やはり身体の仕上がりは最高とは言い切れません。

3. 今大会の目標、意気込み

腰の痛みが強くなる前は、かなり調子も良く優勝を狙っていける自信はありました。現状ではファイナルに残ることが目標です。故障の影響で自分が納得のいく登りができないかもしれませんが、いま出せる力と経験を活かし、上位に入れるよう、全力で頑張ります。

森 秋彩

茨城県山岳連盟
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2019年の世界選手権リード種目で国内最年少のメダル獲得者となった現役高校生。1月のボルダリングジャパンカップを初制覇した勢いそのままに、大会連覇を狙う。

1. リードにおける自身の強み

1番の強みは持久力だと思います。小さい頃から自分の長所として常に意識してトレーニングしてきました。また、複雑なムーブや持ちどころがわかりにくい場面での現場処理能力も自分の中では強みだと思っています。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

いつもはひたすら持久力トレーニングや登り込みなどをやっていましたが、今回は突破力をつけるためにボルダリングも取り入れて、核心でのダイナミックな動きや強度の高いルートにも対応できるようトレーニングしてきました。コロナの関係で遠征は前のように頻繁に行けていないのですが、いまの環境でできる限りのことをやりました。

3. 今大会の目標、意気込み

いま持っている力を全て出し切って最高なパフォーマンスができるように頑張ります。

谷井 菜月

橿原学院高等学校
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森秋彩ら実力者の揃う“2003年世代”を代表する一人。初参戦した2019年のW杯では安定した成績で年間3位の快挙。リードジャパンカップ初表彰台に向けて、意気込み十分だ。

1. リードにおける自身の強み

私がリードクライミングで大切にしていることは諦めない気持ちです。自身の強みとしてはどれだけヨレてきても手を離さず、最後の一手まで振り絞ることだと思っています。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

この大会に向けて、平日は持久力トレーニングを、週末はいろいろなジムに行ってボルダーの登りこみを中心にボディーバランス、ポジショニングを意識して練習してきました。最近の大会は大きなホールドを使った課題も多く、ボルダー能力やバランスが必要な場面も多いので、これまでよりボルダーの頻度を上げて練習してきました。

3. 今大会の目標、意気込み

私はまだLJCで表彰台に乗ったことがありませんが、今回こそはと思っています。完登を目標に諦めない気持ちを持って頑張ります。コロナ禍において大変な時期だからこそアスリートとして最高のパフォーマンスを見ていただき、応援してくださる方々に元気を与えたり、ワクワクしていただけるようなクライミングをしたいと思っています。

田嶋 あいか

慶應義塾大学
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15歳でLJCに統合前の日本選手権を制し、その翌年には野口啓代のボルダリングジャパンカップ10連覇を阻んだ。学生最後となる今大会に、これまでの全てを懸ける。

1. リードにおける自身の強み

昔から「落ちたら死ぬと思って登れ」と叩き込まれてきたので、根性には自信があります。粘り強いクライミングができたらいいなと思います。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

最近では週1、2回のペースでリードトレーニングをしています。ボルダリングジャパンカップまではほとんどリードをしていなかったのでかなり持久力が落ちてしまっていましたが、最近になってようやく戻ってきました。LJCまで残りわずかとなりましたが、さらに良い状態に仕上げられるよう頑張ります!

3. 今大会の目標、意気込み

LJCに初めて出場した2011年から、早くも10年が経ちました。今年が学生最後のLJCとなるので、私にとって大きな意味がある大会だと感じています。これまで積み上げてきたものを出し切れるようなクライミングをしたいです。応援よろしくお願いします!

久米 乃ノ華

船橋市立船橋高等学校
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公式戦出場3大会目となった前回大会で10位に食い込み初の日本代表入りを果たすと、「Top of the Top」ではボルダリングを含む2種目で決勝に進出した新星。

1. リードにおける自身の強み

ホームジムの「登攀道場」(千葉県千葉市)がボルダリングジムなので、ルートを読み解く力がまだ足りません。それを補うための持久力が強みです。

2. 今大会に向けたトレーニング状況

週4回のペースで登っていて、主に持久トレーニングを、週1回はリードのトレーニングを行っています。リードではオンサイトトライをメインにしています。どこまで登ることができるか、一本一本のトライを大切にして楽しんでいます。ホームジムには最近流行りのボテやスローパーが少なく、苦手意識があります。その練習ができるジムに行った時には、がむしゃらに触って登れるイメージや感覚を身につけられるようにしています。

3. 今大会の目標、意気込み

昨年はW杯メンバーになることができ、とても嬉しかったです。しかし、コロナ禍で国際大会に出場できませんでした。LJCで日本代表権を獲得し、今度こそ国際大会で活躍することが目標です。まだまだ試合経験が浅い私ですが「クライマーは挑戦者たれ」を胸にいま持っている力をすべて出しきれるよう頑張ります! 応援よろしくお願いします。