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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策 日本代表チームの活動再開ガイドライン

緒言
  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の概要
     a) ウイルスの特徴
     b) 感染経路、様式
     c) 予防
  2. 活動再開ガイドラインの考え方(表1参照)
     a) 各 Phase の考え方(表 1)
     b) 施設利用の考え方
  3. スポーツクライミング日本代表チームの活動再開に向けた準備
     a) 日常生活
     b) トレーニングを行う環境
     c) 活動再開前のチェック
  4. 選手自身が準備・対策すること
     a) 活動参加の準備
     b) 活動中の対策
     c) その他の留意点
  5. 熱中症に関する留意
  6. 参考資料
    表 1.日本代表チームの活動再開ガイドラインの各 Phase の考え方別添
    簡略版 日本代表チームの活動再開ガイドライン

緒言

新型コロナウイルスの感染拡大によって多くのアスリートが社会活動や競技大会参加、さらにはトレーニング活動の自粛を余儀なくされました。この現状は世界保健機関(WHO)や国内行政機関によって感染拡大阻止のための様々な対策と国民一人一人の努力によって、この感染症はいずれ終息を迎えることが期待されています。 しかし、これまでの多くの感染症と同様、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19 という)の終息は極めて緩徐に進むことが予想されるため、スポーツ活動を含めた活動制限や行動自粛は、その程度に応じて段階的なプロセスを経て実施する必要があると思われます。
私たちスポーツクライミング日本代表選手も社会の一員として政府や自治体の要望に応えながら、チーム目標やそれぞれの選手の目標を達成するために国のスポーツ関連事業と足並みをそろえて活動の再開を目指していきます。 またそれぞれの選手のトレーニング環境は異なるため本ガイドラインは個別のトレーニングについての方向性を示すものではなく、日本代表チームとしての活動(強化練習会や合宿など)の方向性を示すものである。今後の日本代表チームの活動について選手および関係者の皆様にもご理解いただいた上でこのガイドラインに示した方向性に沿って共に活動を再開していければ幸いです。

1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の概要

a) ウイルスの特徴

COVID-19 の原因となるウイルスは、コロナウイルスというウイルスの一種です。コロナウイルスの多くは一般的な風邪の原因となるもので、重症化することは滅多にないのですが、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の原因ウイルスもコロナウイルスの一種です。COVID-19 の原因ウイルスは、既知のコロナウイルスとは異なるコロナウイルスで、2019 年に初めて発見されたウイルスです。また一般にウイルスは、それ自体では増えることはできず、粘膜にある細胞の中に入り込まないと増殖できず、健康な皮膚では表面に付着するだけと言われています。物の表面についたウイルスは時間がたてば壊れてしまいます。粘膜から細胞にウイルスが入り込んでしまうと、ウイルスが増殖し始めます。この状態が「ウイルスに感染した」という状態です。

b) 感染経路、様式

ウイルスが入り込んで感染を起こしやすい部位としては、目の粘膜、鼻の粘膜、のどの粘膜、のどよりもっと奥の気管や気管支の粘膜が挙げられ、ヒトからヒトへ感染する感染様式としては「飛沫感染」、「接触感染」があると考えられています。これに加えて、一部は「飛沫核感染(空気感染)」の可能性もあるのでは ないかと考えられています。 飛沫感染とは、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がその飛沫を口や鼻から吸い込んでしまって感染する様式です。閉鎖した空間で、近距離で会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどがなくても感染のリスクがあるとされています。
接触感染とは、感染者から排出されたウイルスが、感染者の体表や接触物につき、そこを他の人が触れることによって手指などにウイルスが付着し、その手や接触物で粘膜に近い口や鼻を触ったり目をこすったりすると感染してしまうような様式です。

c) 予防

予防に関しては、ワクチン開発が現在進められていますが、実用化されるまでにはまだしばらくかかりそうです。現在のところ、感染を防止するためにできることとしては、飛沫感染防止対策として「3 密を避ける」ことや「咳エチケット」、「身体的距離の確保」、「マスクをして周りの人に飛沫を飛ばさないように配慮する」ことが重要になります。接触感染防止対策としては「こまめに手を洗う」ことや「手指消毒」が重要となります。手洗いは、たとえ流水だけであったとしても、ウイルスを流すことができるので有効ですし、石鹸を使った手洗いはコロナウイルスの膜を壊すことができるので、更に有効です。手指消毒用アルコール(70%以上)も同様にウイルスの膜を壊すことによって感染力を失わせることができるため、有効と言われています。

2. 活動再開ガイドラインの考え方(表1参照)

a) 各 Phase の考え方(表 1)

基本的に考慮すべき項目として、COVID-19 の感染拡大状況に伴う警戒レベル(Alert Level)とトレーニングの段階(Phase)を区別する必要があります。Alert Level は 4 段階とし、

 A:緊急事態宣言(特定地域指定)が出されている時期
 B:緊急事態宣言は解除されたが、引き続き警戒が必要な時期 (都道府県間の移動自粛期間)
 C:警戒をしながら新しい生活様式へ移行する時期
 D:新しい生活様式を踏まえた通常状態

これに沿って、トレーニングの Phase を、以下の 4 段階としました(表 1 参照)。

  • Phase1:外出自粛等の中でのホームエクササイズや屋外のジョギング等、個人トレーニングの時期
  • Phase2:クライミングジム施設を利用した個人でのトレーニング時期
  • Phase3:クライミングジム施設を利用し日本代表チームによる集団トレーニングを実施し始める時期
  • Phase4:通常のトレーニング時期

※Phase3以降では以下の注意点に沿って活動機会や規模を段階的に増やしていきます。

  • 一度にトレーニングに参加する人数は3密を避けたり、使用施設のガイドラインに沿って実施形態を検討しながら活動します。
  • 各都道府県、市町村などによりさまざまな要請や基準がある中での活動再開となるため利用施設のある各自治体の要請や基準を尊重した上で柔軟に対応します。
b) 施設利用の考え方
  • 日本代表選手達が安心して施設利用できることが非常に重要となります。そのためトレーニング施設は感染予防対策が十分に取られている施設を選定し、日本代表チームにより施設を占有利用するなどにより密な状態を減らしながらトレーニングできる環境整備をできる範囲で行っていきます。
  • 前述のa)各 Phase の考え方(表1)のように各 Phase におけるトレーニング環境について、特にPhase の初期は参加数に応じた十分な身体的空間の確保、換気や消毒等の感染拡大予防の方がトレーニング効率を求めることよりも重要なこととなります。 クライミング施設を日本代表チームで占有利用する場合と一般クライマーと共有利用する場合では参加する選手数やスタッフ数など表1の通りではありません。施設利用状況によって柔軟に対応します。
  • 屋内施設(クライミングジムなど)では、それぞれの施設の空間サイズによって施設利用者の数は大きく異なるため各施設で推奨されている利用者数を遵守した使用となります。3 密に配慮しながら、特に手指消毒などによる接触感染を強く意識して活動し、段階的に利用を拡大していきます。
  • 屋外施設では、クライミングギヤなどを共有使用せず、段階的にグループトレーニングに移行していきます。

3. スポーツクライミング日本代表チームの活動再開に向けた準備

a) 日常生活

COVID-19 の潜伏期間は 2 週間ともいわれており、感染経路の特定のためにも、トレーニング等の活動参加日の少なくとも2週間前の体調・および行動を記録しておく必要があります。記録すべき項目は、

  1. 体温計測(午前)
  2. 体調変化の有無
  3. 簡単な行動の記録(出かけた場所や出会った人の氏名)

日本代表チームの活動に参加可能な選手は少なくとも2週間前の体調・および行動を記録に異常ない選手とし、①~③の状況を担当スタッフへ対して報告する必要があります。そのほか、日常生活では中性洗剤(石鹸)による手指の洗浄、もしくはアルコール消毒をこまめに行い、外出時はマスクを装用し、前後、左右で身体的距離(2m)を保ち、公共の交通機関の利用は出来る限り避けましょう。また、3 密を回避し(密集、密接、密閉)、対面での食事は避け、持ち帰りや出前、デリバリーでの食事をうまく活用して食事内容を整えてください。買い物は、事前に計画をたて素早く済ませるようにし、通販を利用するのもよいでしょう。これら日常生活における感染予防の留意点は、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(令和 2 年 5 月 14 日)」の 25 ページの別添 3 に「新しい生活様式の実践例」として発信されていますので、こちらも参照してください。

b) トレーニングを行う環境
  1. 衛生管理
    • 屋内でトレーニングを行う場合には徹底して換気を行います。トレーニング機器は使用後に、消毒剤(0.05%次亜塩素酸ナトリウム、70%以上のアルコール)を用いて消毒します。選手、スタッフが触れた共用部分は、使用後その都度消毒が基本となります。
    • クライミング中においてホールドに触れる行為は避けられないため、手指消毒は特に意識して度々おこなうようにしてください。
  2. スタッフ

    極力公共交通機関を利用せず徒歩、自転車、車移動できる者で最少人数とします。その後感染拡大状況に応じて、指導するスタッフの人数やスタッフ一人当たりが同時に指導する選手の数を増やしていきます。選手同士、選手とスタッフ同士の間隔も2m 程度空ける様に工夫します。指導の仕方については、まずはほぼ口頭での指示、アドバイスにとどめてケアなど選手との接触を極力避けるようにします。各Phaseに応じて、選手との接触も開始していきます。選手と接触したらその都度手洗いを徹底します。

c) 活動再開前のチェック (各選手がチェックする内容)
  1. チェックにおける考慮事項

    自粛期間等で本来のスポーツ活動が制限されていた環境は、ケガなどでトレーニングが出来なかった環境と類似しています。トレーニングの分野では、そのような状態をディトレーニング(トレーニング中断)といいます。またディトレーニングからトレーニングを再開していくことをリトレーニング(再トレーニング)といいます。ディトレーニングによって体脂肪量が増えて体重が増える、または体重は変化していなくても体脂肪量が増え、筋量が減っている可能性があります。心肺機能や筋力も低下し、ケガもしやすくなっています。したがって、トレーニングの Phase(表 1)に応じて、トレーニング強度を上げていくようにしましょう。

  2. 体調等のチェック

    リトレーニング前に自分自身でコンディションの確認を行い、体調等に問題がないかどうか確かめてからトレーニングを再開してください。トレーニング再開前から再開後にいたっても継続的にコンディション(体重、体温、心拍数、睡眠時間、疲労感、食欲、風邪などの症状など)を記録し、良好な状態でトレーニングに臨むことが望ましいです。

  3. 体組成のチェック

    トレーニング中断前からの体組成の変化はトレーニング再開後の負傷のリスクにつながります。リスクを避けるため、トレーニング中断前の体組成との差が大きい場合にはトレーニング計画の調整が必要なこともあります。トレーニング中断前との変化を確認するために、トレーニング再開時には、体組成の現状を把握や筋力チェクをすることが望ましいです。

  4. フィジカルチェック

    最大努力を要する項目のフィジカルチェックは、最大強度でのトレーニングに慣れてから行います。まずは以下の内容を踏まえてセルフチェックすることがトレーニングを再開することが望ましいです。また測定実施は、感染症予防対策の遵守が前提であり、これを満たすことができる施設などで、段階的に内容を考えましょう。

    • 柔軟性・可動性の確認
    • 心肺機能の確認
    • 筋力の確認

    ※最大努力を伴う測定は身体が十分にトレーニングに慣れた後に実施します。トレーニング Phase に応じて、自重で行うチェックから器具を用いたチェックに移行していきます。気になる選手については測定によって筋損傷等のケガのないよう、細心の注意を払いましょう。

  5. メンタルチェック

    長期的な活動自粛のストレスなどにより、メンタル面に影響を及ぼしている可能性があります。まず自粛期間中の心理状態を、客観的に把握することは重要です。不安に感じている選手は国立スポーツ科学センターの心理サポートを活用してください。詳細についてはチーム担当者へご連絡ください。

  6. 栄養チェック

    トレーニング再開に向けて大事なことは、前述した「①体調等の確認」をして、良好なコンディションでトレーニングを再開できるために準備をすることです。そのひとつに栄養・食事面の確認があります。自粛期間中の栄養・食事面なども見直してみましょう。JISS の HP で公開している「アスリートの食事の基本」を振り返り、偏った食生活になっていないかどうかを確認し、食事の基本を整えることができるよう食事の見直しをしてください。また、引き続き自宅待機が必要になった際にはHPSC 臨時特設サイトで公開している「自宅待機中のコンディショニングに役立つ栄養情報~活動量が少ない時のコンディショニング~」の中で、活動量が少ない時の生活のポイントについて掲載されていますので、そちらも参考にしてください。

4. 選手自身が準備・対策すること

a) 活動参加の準備
  1. 健康チェックと報告

    日本代表チームの活動に参加可能な選手は少なくとも2週間前の体調・および行動を記録に異常ない選手とする。そのため日頃から自身の体調を把握し、その内容をチーム担当者に報告すること。また熱や咳などの症状がある場合は活動参加を自粛すること。

  2. 活動参加の際に準備するもの

     (1) マスク
     (2) 手洗い用石けんまたは消毒液
     (3) 蓋付きの容器の飲料物
     (4) リード練習時の際はクライミングロープ、ビレーグローブ(個人装備とし他人との共有利用はしない)

b) 活動中の対策
  1. マスクを着用する。

    ※利用施設のガイドラインに沿って柔軟に対応し、スタッフの指示に従うこと。
    ※マスクを頻繁に着脱する行為およびマスクの放置が感染の契機となる可能性があるため、マスク着用の状態を維持することが望ましい。ただし、呼吸困難や熱中症、その他身体への影響が心配される場合はこの限りではない。

  2. 登っている、マット前で待機している、休憩している、いずれの状況においても周囲の人となるべく距離(可能であれば2 m以上)をあけること。
  3. こまめに手洗い、手指消毒を行う。
    ※感染予防のためのアルコール消毒は濃度70%以上が推奨されている。
  4. チョーク、ロープ、タオル、飲料物等は他者との共有はしないこと。
  5. 飲料物は蓋付きのものを準備すること。また飲み口を直接手で触れないよう注意すること。
    ※熱中症および脱水には十分留意し、水分摂取に関しては無理な制限をしないようさらなる注意を払うこと。
  6. 施設内での食事を控えること。
c) その他の留意事項

トレーニングで利用した施設利用者あるいはスタッフに感染が発生した際は、地域の生活圏における自治体の衛生部局(保健所など)に報告し対応を仰ぐこと。

5. 熱中症に関する留意

気温や湿度が高い練習環境下では感染予防と同時に熱中症予防にも留意する必要がある。特に運動中のマスク着用については、十分な呼吸ができなくなるリスクや熱中症になるリスクが指摘されている。このような状況を踏まえ以下の点には特に留意が必要となる。

  1. 日本代表チームのトレーニングは運動強度が高い内容も含まれているため、運動中のマスクの着用は練習環境などを考慮し柔軟に対応する。
  2. 選手が常時のマスク着用を希望する場合は外気を取り込みにくいN95マスクなどの医療用や産業用マスクではなく、家庭用マスクの着用を薦める。
  3. マスクを外して運動する際は不必要な会話や発声を行わず、選手間の距離を2m以上確保するとともに2名以上で同じルートや課題を登らないようにする。
  4. スタッフは気温や湿度、風向風速などの環境条件を常に把握することを心がけ、選手達へ水分補給を促すように指導する。

6. 参考資料

  • 独立行政法人日本スポ―ツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてのスポーツ活動再開ガイドライン(国際競技力強化版)」2020年5月22日
  • 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会「クライミングジムの営業再開に向けた感染予防指針」2020年5月26日
  • スポーツ庁政策課学校体育室「学校の体育の授業におけるマスク着用の必要性について」2020年5月21日

関連リンク